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執筆者の写真33.VIN

DOMAINE ANNE GROS ドメーヌ・アンヌ・グロ



グロ家は、ブルゴーニュのヴォーヌ・ロマネ村で代々続く名家であり、グラン・クリュをはじめとする、錚錚(そうそう)たる畑を所有する名門ドメーヌである。現在は、4つのドメーヌに分かれるも、各々が偉大なワインを生み出している。


グロ家の歴史は、1804年アルフォンス・グロの誕生から始まったが、今日の名門ドメーヌの礎は、4代目であるルイ・グロによって築かれた。その後、ジャン・グロとグロ・フレール・エ・セール(ギュスタヴとコレットの共同経営)、そしてフランソワ・グロの3つのドメーヌに分割された。


ドメーヌ・ジャン・グロはミシェル、ベルナール、アンヌ・フランソワーズのジャン・グロの子供達のうち、ミシェルが跡継ぎとなり、ドメーヌ・ミシェル・グロへ。


ベルナールは、グロ・フレール・エ・セールのギュスタヴとコレットに子供がいなかったという理由から、彼らのドメーヌを継ぐこととなった。


アンヌ・フランソワーズは、相続によって畑を受け継ぐこととなり、独自でドメーヌ・A.Fグロを立ち上げた。


フランソワ・グロは、娘のアンヌと連名のアンヌ・エ・フランソワ・グロとドメーヌ名を改名したが、1995年、ドメーヌ・アンヌ・グロが正式名称となった。


 


ブルゴーニュ屈指の女性醸造家 「アンヌ・グロ」。 彼女のワインが持つ、女性的であたたかい雰囲気はどこからやってくるのだろう?

今回、彼女の目指すワインの理想(カタチ)が明らかになる。





アンヌ・グロ本人の提案により、食事をしながらのインタビューとなった。ヴォーヌ・ロマネ村の名門グロ家、そのドメーヌ当主ともなれば、頻繁にそういった取材を受けるのだろうかと尋ねると、「お話したい人とだけ。特に食事は大切な方とだけよ」とリップサービスまで頂戴し、インタビューは始まった。



編集部(以下、編):今日は、子供達はいらっしゃらないのですか?


アンヌ(以下、ア):下の子達二人は学校へ行ったわ。長女は、ニュージーランドにワインの研修に行っているの。私の跡を継ぐために、必死で勉強しているのよ。

20歳の息子も醸造学校へ通っているけれど、お姉ちゃんの方が優秀ね。少し息子はのんびりしたところがあって、少し考え方が幼いのよ。日本はわからないけれど、フランスは女性の方が成熟していて、頑張り屋さんが多いわね。


編:日本も女性がどんどん活躍の場を広げていますよ。今回の女性特集もそういうメッセージを伝える企画なんです。


ア:女性の社会進出は、世界共通なのね。私はワインのテクニカル的なことよりも、情熱や感情的なものを大切にしているから、素晴らしい記事になると良いわね。


編:貴女もオーストラリアに研修に行ったと聞いているけれど、今回の研修は貴女が勧めたのですか?


ア:オーストラリアだけではないわよ。シャンパーニュやボジョレにも研修に行ったわ。娘は自分の意思で、ニュージーランドを選んだの。何か、考えがあるのでしょうね。

私は18歳の時に、この世界に入ったのだけど、それまではまったく継ぐ気はなかったのよ。幼少から見続けてきた仕事だから、その大変さを嫌というほどわかっていたわ。でも、ひとりっ子だったし、父が病気になってしまったからね。私が継がなければ、畑を売るか、貸すしかないし、もし私がお嫁に行ったら、持参金として渡さなくてはいけないの。ブルゴーニュは相続の問題が複雑だから大変なのよ。


編:確かに、相続は複雑そうですね。すでにグロ家の家計図は入り組んでいますものね。


ア:知っての通り、親戚中ワイン家業をしているけれど、このドメーヌの歴史を私で閉じることが嫌だったのよ。とにかく挑戦してみることにしたのだけど、本当に物凄い仕事量だったわ。1988年にはじめたことになっているけど、実際は1987年には醸造していたから、かれこれ27年間働き詰めね。


編:今はもっと忙しいのではないですか?旦那さんとラングドックで畑を購入しましたよね。


ア:彼は夫ではなくて、フィアンセなの。日本では珍しいケースかもしれないけれど、フランスでは内縁関係というスタイルが多いのよ。精神的には一緒になっているし、結婚式のようなものも挙げたわ。でも私たち、結婚はできないの。それは、お互いが別のドメーヌを持っていて、そのドメーヌを別々の名前で続けていかなければならないからなの。ブルゴーニュって本当複雑だわ。


編:でも、ラングドックの新しいワインは、二人の名前がしっかりと記されています。本当は、最愛の人と一緒に切り盛りする新たなドメーヌが夢だったのですよね?


ア:その通りよ!今では、私達の末っ子、4番目の子供のように感じているわ。フランスでは子供は2人が一般的だけど、私は4人欲しかったから、夢が叶ったの。その子について、よく喧嘩もするけれど、とても楽しいわ。それに、新たにAOCをつくる働きかけをしているのよ。


編:物凄くロマンティックなお話ですね。ワインの味わいからも、その素敵な雰囲気が伝わってきます。そういえば、女性醸造家の団体も運営していますよね。

Femme et vin de Bourgogne http://www.fevb.net/


ア:30年前は3ドメーヌほどしかなかったけれど、今では38ドメーヌも加盟しているのよ。2ヶ月、3ヶ月毎に集まって会合を開いたり、イベントをしたりするの。女性たちが子供を男性に預け、外出して楽しむ日なのよ。

お互いのワインを試飲したり、マリアージュさせたりしながらの情報交換の場になっているわ。コルクや樽についてのことから、収穫時に子供を預けるところなども教えあったりしているのよ。


編:女性醸造家はやはり大変なのでしょうか?


ア:それはそうよ。20年前はもっと大変だったのよ。エレベーターなんてなかったし、ワインを運ぶだけでも、一苦労。男性にとっても重労働なのだから、肉体的にみても、女性には本当に厳しい世界ね。それに、子供がいたら子育てもしなくてはならないの。

今は、男性も家事に参加する傾向になってきたけれど、昔はすべて女性の仕事だったから。男性は夜になると、醸造家仲間や友人と飲みに行ったりするけど、そういった息抜きも出来ず、私も世間から孤立した気分になった時期もあったわ。


編:そういう厳しい環境で、素晴らしい味わいが造れるようになるためには、何か秘訣があったのですか?


ア:ワインの味わいはテロワールの賜物だから、作り上げるものではないけれど、哲学ならあるわ。心に良く、体に良く、頭にも良いワインを作ること。頭にも良いというのは、その場で楽しい会話が出来たり、アイデアが浮かんだりという意味ね。

たくさん飲まなくても、喜びがすぐに感じられるようなワインを目指すの。家事が終わった後、一人でゆっくりと自分のワインを飲んで、幸せを感じていたわ。


編:何か女性たちにメッセージを送っていただけますか?


ア:あらゆる分野で男性しかいなかった場所に、女性が進出している。そこで、生きてゆくのは大変だから、戦わなくてはいけないのよ。男性だけの仕事なんて言っていられないわ。

日本では女性はいまだおとなしいのでしょ?1人目の子供が出来るまでは一生懸命働くけれど、子供が出来たら仕事をやめてしまう人が多いって聞くわ。でもそれも良いことなのよ。重要なことはみんなが幸せになること。

円熟した彼女が語る言葉はすべてが心地良く、愛に溢れていた。偉大なるテロワールと彼女の哲学が、ワインのカタチをつくりだす。そして、その味わいは優しく、私たち飲み手に幸せのカタチを気付かせてくれるだろう。


Photo : MIHO

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